契約があっても、送らないデータ
見られない保証はない。だから経営が決める
契約が約束しているのは、学習に使わないこと。誰にも見られないという約束ではなく、担当者が内容を見る場合や、しばらく保存される場合がある。裁判所が、利用者が削除を選んだ会話の記録も消さずに残すよう命じた例もある。だから、どのデータを送るかは経営が決める。問いは三つ。漏れたら取り返しがつくか、自社だけのものか、送らずに済ませる方法はないか。送らないと決めるデータを、会社として決めておく。
法人向けの契約が約束するのは「学習に使わない」こと。「誰にも見られない」「残らない」「外へ出ない」ことまでは約束していない。だから、データによっては、AIに送るか送らないかを経営が決める。考える三つの問いを、動く図解で追う。
送らないと決めるデータの例
| データ | 送らない理由 |
|---|---|
| パスワード・APIキー・秘密鍵 | 漏れた瞬間に実害が出る。AIに渡す必要が、そもそもない |
| 他社から守秘義務つきで預かった情報 | 自社の判断だけでは出せない。相手との契約が、第三者への提供を禁じていることが多い |
| 未公表の重要事実(決算前の数字、買収・提携の交渉) | 漏れると取り返しがつかず、法令上の問題にもなる |
| 病歴・健康診断・マイナンバーなどの個人情報、人事評価や給与 | 本人に被害が及び、会社が後から回復できない |
| 競争力の源泉そのもの(製法、配合、設計の核心、価格の決め方) | 一度出たら、元に戻せない |
| 係争中の案件や、弁護士との相談内容 | 相手方に知られると致命的。保全命令のような外部の事情の影響も受けやすい |
| 自社の弱点(未対応の脆弱性、ネットワーク構成、診断結果) | 攻撃の手引きになる |
議事録、社内文書の下書き、公開済みの資料、一般的なコードなど、ふだんの業務データの多くは、契約があれば送ってよい側です。
これは運営者の考える例で、法的な助言ではありません。
動画で触れた事実
- 学習への利用、人によるアクセス、保存、外部への開示は、別々の条件で決まる。「学習に使わない」という契約は、ほかの三つまで約束するものではない。
- 人によるアクセスは、会社とプランで違う。OpenAI は、Business と API について、不正利用の調査などのために、権限を持つ従業員や委託先がアクセスする場合があると説明している(Enterprise と Edu は、より限定されている)。Microsoft は、法人向けの Copilot では、人による確認を伴う不正利用の監視を無効にしていると説明している。Google は、Workspace の Gemini について、許可なく人がレビューすることはないと説明している。
- 保存される期間は、プラン・機能・設定・契約によって異なる。
- 保全命令: 2025年5月13日、米国ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所は OpenAI に、利用者の削除の求めで消えるはずの出力ログも保全するよう命じた。OpenAI の説明では、ChatGPT Enterprise・Edu と、契約に基づく Zero Data Retention の API は対象外で、Free・Plus・Pro・Team と通常の API は対象だった。
- この広い保全の義務は 2025年9月26日で終わったが、それまでに保全されたログは、引き続き保全された。2026年1月には、識別情報を除いた会話ログの提出を命じる別の決定が維持された。
ナレーション
- 00:00 – 00:14 契約の約束 前の動画で、会社の情報は、会社が契約したAIに入れる、と話しました。契約が約束しているのは、学習に使わない、ということです。
- 00:14 – 00:34 約束していないこと でも、それは、誰にも見られない、という約束ではありません。不正な使い方の調査などで、担当者が内容を見る場合がある、と書いているAIの会社もあります。入れた情報が、しばらく保存されるサービスも、多くあります。
- 00:34 – 00:52 契約の外の事情 契約の外の事情で、扱いが変わることもあります。二〇二五年、アメリカの裁判所は、あるAIの会社に、利用者が削除を選んだ会話の記録も、消さずに残すよう命じました。
- 00:52 – 01:03 だから経営が決める だから、どのデータを送るかは、現場ではなく、経営が決めることです。考える問いは、三つです。
- 01:03 – 01:28 三つの問い 一つ。漏れたら、取り返しがつくか。二つ。それは、自社だけのものか。預かったものや、個人のものでは、ありませんか。三つ。送らずに済ませる方法は、ないか。伏せ字にする。要約して送る。外へ出さない方法を使う。
- 01:28 – 01:44 まとめ ふだんの仕事のデータの多くは、契約があれば送れます。そのうえで、送らないと決めるデータを、会社として決めておきましょう。契約は、出発点です。